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キャロットは、いつものようにいつものごとく仕事で訪れた町中をふらふらと歩きまわっていた。決して仕事のための実地調査ではない。身も心も完璧にただの観光客として歩いている。
確かに、宿を出た理由は『情報の収集』であった。
が、一歩賑やかな通りに足を踏み入れたとたんにその理由は空の彼方に飛んでいったきり帰ってきそうになかった。
禁呪の調査に訪れた場所とはいえ、この町は小さいながらに、帝都や有力な地域への道筋にあたっているため様々な珍しい品物や、各地の旅人であふれ、市場などは毎日がお祭りのようなにぎわいだった。
キャロットは、こちらは正真正銘『情報収集』のためにこの町のどこかを歩いているはずのティラが見たら、音の壁を破って駆けより、しばきたおしているだろう「カワイイ女の子への愛の語らい」を繰り返しながら、ごったがえす人波の中を歩いているうちに、いつのまにかその人波に流されて一つの屋台の前に出てしまった。
「いらっしゃいっ!はい、そこの彼!1回いかがっ!?豪華景品。空クジ無しだよっ!!」
いきなりの威勢の良い呼びこみにキャロットが足を止め、しげしげと屋台の奥の景品を・・・・というよりも自分に声をかけてきた元気のいいおネエチャン、を眺めた。眺めたそのとたん、キャロットの顔がにへぇ、と微笑む。
すごい美人、というわけではないがキレイな髪をきゅっとポニーテールに結い、いかにも元気の良い働き者、といった感じの、ちょっと汚れたTシャツがかえって新鮮に映る可愛い女の子だったのだ。
「お、お嬢さん?『彼』ってオレのことかなぁ?何か御用ですか?いかがです?その辺でお茶でもっ!!」
狭い屋台の縁台に伸び上がるようにしていきなりお誘いをかましだす相手に、その娘は驚く風も無くあはは、と笑いながら商売を開始した。若いのに気合いが入っている娘さんだ。
「え〜?お茶?嬉しいけどダメダメ、仕事中だもん。それより、ね?これも何かの縁だと思ってクジびきしてみない?」
「クジびきしたら、オレとデートしてくれる?仕事終わるまで待ってるからさぁ。あ、なんならオレ客引きしちゃおうか?」
「そうねー、どうしよう。あなたがクジひいて特等当てたら、考えちゃおうかなぁー。」
「のったァ!!♪」
けらけらと笑う彼女の掌に、キャロットはポケットから探り出した小銭のありったけを押し付けた。
チャレンジすること数十回・・・・・キャロットの前には『残念賞』の小さなキャンディの山ができていた。
「ぐむむうぅぅ〜!最後のいーっっかいっっ!!」
仕事の時もそのくらい真剣になれよ、おまえ・・・と、どこからかつっこみが入りそうな迫力でもってキャロットが引いた最後の1枚を確認した娘さんはひどく嬉しそうに賞品目録の脇に置いてある鐘を手に取り、がらんがらん!と振りまわした。
「お〜め〜で〜と〜う〜御座いますっっ!!」
「えっ!?何?当たり?特等っ!?」
彼女を抱き寄せようと伸ばされたキャロットの掌に、二粒のキャンディが渡される。
「は?」
「おめでとうございますぅ。お客さん。3等ですよ?3等!!」
「え〜?!特等じゃねえわけ?!・・・だいたいこれって今までの残念賞のアメ玉じゃんか?どこが3等?!」
「イヤだなぁ、お客さん。この町は始めてね?これはそんじょそこらのキャンディとはちょいとばかり違うのよ。この町の人間だって滅多にお目にかかれない天然物紫かすみ草のハーヴエキスなんだから!良かったね?お客さん?」
そこまで言うと彼女は、さぁ次のお客は?とばかりにキャロットを無視して呼びこみを開始してしまった。
「お〜い、ティラぁ?開けろぉい。」
「?キャロですのね?お帰りなさいませ。・・・・なにか御用ですの?カギは開いてますわよ?」
「手が塞がってんだよ。開けてくれえ。」
「手が塞がってるって・・・何持って来たんですの?真面目にお仕事してたんですか?」
途中からいつもの説教口調になりながらもティラが部屋の扉を開けると、キャロットが両手になんだかきらきらしたかたまりをこぼさないようにそろそろと入って来た。
入って来るなり「やるよ」とだけ言って机の上にそのきらきらを広げる。
「ガラス玉?・・・・あ、キャンディですわね?」
まぁ、キレイですこと。 と、嬉しそうにしながらもつい尋問口調になってしまう。
「どうしたんですの?こんなに?またどかで遊んでいたんでしょう?お仕事もしないで」
「クジびきしたんだよ。・・・いらねーんなら返せよ。」
「クジびき?どうしてそう子供じゃあるまいし・・・・」
口では文句を言いつつ、それでもどこか幸せそうにその透き通るもの達を拾い集めようとするティラの手が、ふと止まった。
「あらあら?まぁ・・・なんてキレイな紫でしょ。ふたつだけ」
「あ!?それはダメっ!」
キャロットの手が、ティラよりも先にその二粒を掴み取る。
「なんでダメなんですの?・・・くれるんじゃなかったんですか?!」
「いや、そっちは全部やるけど、これはダメ。」
ぎゃいぎゃいと怒り出すティラの部屋から、キャロットはキャンディをしっかり握ったままでそそくさと逃げ出し、自分と弟の部屋へ戻った。
「・・・・?僕に?」
彼の弟は、目の前でさも大切そうに開かれた兄の掌からあらわれたキャンディを、ちょっと困ったようにながめた。
しっかりと素手で握られていたそれは、ほんの少し溶けてみえる。
けれど、彼の兄は得意顔でそれを差し出してきた。
「おう!!これ。やっと当たった3等なんだ。珍しいナントカ草使ってるんだと!おまえにやる。」
そう言った後、ティラには内緒だぞ?、とつけ加えた。
マロンはどこかはにかんだように笑うと、キャロットの手のひらからそれを受け取った。「ありがとう。」とだけつぶやくと懐から紙を取りだし、丁寧に包んでしまう。
「なんだよ?食わねえんかよ?」
不満そうな声。
「食わないんなら、返せ。味見しちゃる!」
そう言ってのばされた手を、マロンは無視する。
「いやだよ。もう、もらったんだから僕のものだよ。」
「・・・・・かわいくねーやつ!」
キャロットは、たいして怒った風もなくそうつぶやくと、自分の人差し指を口にくわえた。
「お?ちょっと味ついてらぁ♪」
言いながら自分の指を吸うようにする。
「どれ?」
マロンが、その手をとり中指を口に含んだ。
「おいおい?」
ちょっとだけ驚いたような兄の声が、なんだかおかしい。
「・・・本当、甘いね。」
そう言いながら、舌を指のつけねにまで這わせると、くすぐったそうに指が逃げた。
「止せよ。バカ。・・・・・汚ねぇぞ?」
「兄さんは、きれいだよ。すごくね。」
「・・・なに言ってんだ?・・・・おまえ時々わっかんねえこと言うよな。」
キャロットが、弟の口からはずさせた指で、その長い髪をすくう。 マロンの手が、その兄の手をそっと捕まえ、また自分の口に含んだ。
「・・・・・甘いか?」
不思議そうに訊いて来る声。が気持いい。
「兄さんの味がする」
そう答えると、くすぐったそうに「ばーか」 と、言葉が帰ってきた。
おしまい。
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