きみと・ずっと・きっと


「お館様あ……あああ、どうして……こんなことに……」
 ……女は号泣していた。森の外れ、切り立った断崖の直ぐ側。打ち捨てられるように転がっていた、男の醜い屍に取りすがって。
 どのくらいそうしていただろう。女は急速に降りてくる夜の闇の中に、ゆらりと立ち上がった。純白の柔らかな服は、男の流した大量の血で赤く染まっている。……女の金の髪も、青白い顔も。
 血だらけの体で、女は歩き出した。うつろな表情が、やがて憎しみの表情に変わるのに、そう時間はかからない。
「許さないわ……」
女は自分が乗ってきた馬に、もう一度乗る。
「許さないわ……法族狩り!」
叫んだ女の額には、逆三角形文様があった。
女は捜した……自分の地位を保証してくれていた男を殺した者達を。自分の力のなさを呪いながらも捜し続け、ようやく標的を見付けた時には、半年の歳月がたっていた。
「見ていてください、お館様……。貴方の仇は、あたしがとりますわ」
机の上、水晶玉に写る映像を見詰めながら、女は口を歪めて笑った。……狂喜に近い微笑みだった。

「ご苦労様でした」
 闇の中、浮かび上がった聖女の映像が微笑む。……ビッグ・マムだ。キャロット達五人から、仕事の終わった報告を受けているところだ。水晶玉を持ったドーターが、ふわふわと飛んでいる。
「次は……」
「お休み!」
懲りないキャロットが、いつものように口を挟む。他の四人が、溜め息をついた。……どうせ駄目なことはわかりきっているのに、なぜ懲りないのか。……馬鹿だからかもしれない。案の定、マムの微笑みが氷の微笑に変化する。
「十字架を抱かせてあげましょうか? たっぷり休めますよ?」
「……結構です」
こそこそ、とキャロットがマロンの後ろに隠れた。……こういう時、大概キャロットはマロンの背中に隠れる。ふう……と溜め息をつきながら、内心マロンはほんのちょっと嬉しい。
「場所は帝都近くの街、カッシュです。精しい指示はそこへ着いてから出すとしましょう」
「わかりましたですわ、マム」
「では、急いでそこへむかって下さい」
「頑張ってね、みんな!」
通信の最後は、いつものドーターの台詞だった。一気に闇が引き、通信を始める前にいた森の風景が戻ってきた。五人は街と街の間の街道にいたのである。
「ちえーっ、ほんっとうに人使いが荒いぜぇ、マムは!」
「しょうがないよ、兄さん」
すねたような顔をするキャロットに、ほんの小さな(人にはわからないほどの)微笑みを浮べて、マロンが言う。
 ショコラがすすっ、とキャロットの横に寄ってきて、一瞬の内に腕を絡めた。
「さ、行きましょ、ダーリン 」
「……って、なんで腕を絡める?!」
「あん、どうせ行かなきゃいけないんですもの、道中楽しくした方がいいじゃない?」
「楽しいのはお前だけだろ?」
「そうですわ!」
ティラが抗議する。キャロットは慌ててショコラを引き離すと、脱兎のごとく駆け出した。
「ああん、待ってよダーリンっ!」
「お姉様っ!」
追い掛けて姉妹が走り出す。
「おおい! この先の街で宿取るからな!」
ガトーが後ろから声を掛けたが、聞こえているのかいないのか。
「聞こえたかな」
「大丈夫だと思うよ」
マロンがくすっ、と笑った。
 五人の進行方向にあった街の名は、レープという。街の規模は中くらいか。平和ではないが酷く悪い訳でもない、そんな街だ。
 トップで街に入ってきたキャロットは、案の定、道ゆく女性に片っ端から声を掛けている。
「お嬢さーん! 僕と今夜、天国を見てみないかーい?」
何時もながらの、上手いとは言えないナンパである。当然のごとく成功する訳はない。
「すけべっ!」
「変態っ!」
「どっか行ってよっ!」
あらん限りの罵声と共に殴られる。張り倒される。蹴飛ばされる。散々である。
「いってててて……」
張り倒されたキャロットが、殴られた頬をさする。ここまでされたら、いいかげんやめとけばいいのだが……。
 ところがそんなキャロットの様子を、物陰からうかがっている人間がいた。
 一人は、金の髪のグラマラスな美女。黒いフードつきの外套を羽織っている。そしてもう一人……十二才くらいの、少年だ。
「さあ、あの人よ。間違えちゃ、だめよ」
「うん……」
少年は、おどおどと頷いた。
「……妹を助けたいんでしょう」
少年は顔を上げた。青ざめた顔に、悲壮な決意の表情が浮かぶ。
「さあ……教えた通りにやりなさい。そうすれば、妹は助かるわ」
頷いて、少年が歩き出す。それを見詰めながら、美女は笑った。声を出さず、唇だけで。その顔は、あの復讐を誓っていた女のものであった。
「兄ちゃん、なにしてんだよ」
「あん?」
 声を掛けられて、地面に座り込んでいたキャロットが顔を上げる。ポケットに手を突っ込んだ少年が、自分を見降ろしている。
「誰だお前?」
「俺、ブレン。兄ちゃんは?」
「俺か? 俺は、キャロット」
すとん、とブレンがキャロットの隣に座り込む。
「ずーっとナンパしてたけど、ぜーんぶ失敗してたなっ」
「うっ……」
いきなり核心を突く台詞に、キャロットが言葉に詰まった。
「やかましいっ、ガキのくせにっ」
「ガキじゃねえよ、もう十二だ」
「十分ガキじゃ!」
キャロットがむっとしたように立ち上がる。ブレンも立ち上がると、歩き出そうとするキャロットを引き止める。
「待てよ、兄ちゃん。いいもんやるから」
「あんー? いいもの?」
『いいもの』と聞くと、思わず立ち止まるキャロットだった。
「これ」
ブレンがポケットから、指輪を取り出す。
「なんだ、それ?」
「魔法の御守りだよ。最近、この街で流行ってる」
「御守りー? んなもん、興味ねぇな」
「女性にもてるよ」
「なにっ?!」
振り向きかけていたキャロットが、まるでゴムで引っ張られたように戻ってくる。ブレンが呆れたような表情をした。
「ほ、ほんとーか?」
「う……うん。なんにでもきくよ。幸福の御守りなんだ」
ブレンは頷いた。少し視線を外したが、キャロットは気付かない。
「これをね、三日間……左手の薬指にはめておくんだ」
「それだけ?」
「うん」
赤い石を細く削った指輪だ。本当かなあ、という表情のキャロットの左手を、ブレンが強引に引っ張って、指輪をはめてしまった。
「じゃあな、兄ちゃん!」
「あ、おい。ちょっと待てよ!」
キャロットの制止を、ブレンは聞かなかった。そのまま、逃げるように……実際に逃げていたのだが……その場を去った。
「……変なの」
呟きながらキャロットは、指にはめられた指輪を見る。外してみようとするが、まるで吸い付いたようになって離れない。
「あれっ?」
焦って何度かトライしたが、一ミリも動かない。
「ど〜すんだよこれ〜?」
さすがに不安になって、キャロットが呟いた。
「あっ、いたっ! ダーリンっ!」
聞き馴れた声が自分を呼ぶ。不安になっていたキャロットは、逃げることを一瞬忘れて、されるままにショコラに抱きつかれてしまう。
「どわーっ! ショコラ! やめいっ!」
引き離そうとじたばたしているところへ、ティラも駆け付けてくる。
「お姉様っ! 往来の真ん中で、やめてくださいましっ」
そう叫んだティラだったが、直後キャロットの指に光る物を見つけてぎょっとなる。
「き、き、きき、ききき」
「猿か?」
「キャロおおっっ!」
ティラが一際大きく叫ぶ。まわりを歩いていた人々が、驚いて振り向いた。
「馬鹿、ティラ! お前の方が恥ずかしいわいっ」
「そ、そ、それどころじゃありませんですわ!キャロ! いつのまに、結婚指輪などっ 」
「なんですって?!」
ティラの言葉に、ショコラも驚いて、改めてキャロットの左手を見る。
 キャロットの左手の薬指には、しっかりと指輪がはまっている。
「ちょっと……どういうことよ、ダーリン!」
「ちょっと目を放したすきに……! いったい、どこの誰と?!」
怖い二人ににらまれて、キャロットは冷汗をかいた。
「ご、誤解だっ。これはそんなんじゃねえよ!第一、そんな指輪が赤い訳ねえだろ!」
「本当?!」
「本当だって! さっき、ブレンって子供にもらったんだよ! 幸福の御守りだって」
「御守り……?」
こくこくとキャロットが頷く。二人は半分疑いの視線を向けていたが、やがて思い直したようにショコラが微笑んだ。
「ま、そうよね〜 ダーリンはあたしと結婚するんですもの」
「な、なん、なんでそうなるんですかっ」
「あらティラ、何か不満があるの?」
「いえっ、いやはいっ、じゃなくてっ」
「なに慌ててんのよ」
ぐっ、とティラが答えに詰まり、ショコラが可笑しそうに微笑む。
「ともかく、マロン達と合流して、宿を取りましょ」
「そ、そうですわ!」
話題が変わったことに、ティラがほっとして賛成する。キャロットは再び指輪を外そうとしているが、やっぱり外れない。
「後でガトーにでも引っ張ってもらったら?」
「指輪の前に俺の指がもげるわっ」
「洗剤をつけてみるといいかもしれませんわ」
喋りながら歩いていく三人を、やはり物陰から、あの美女とブレンが見ている。
「上手くいったわね」
美女の呟きに、ブレンは答えない。
「さあ、今度は貴方の妹の所へいきましょう。そうすれば、あの子は助かるわ」
美女に促され、ブレンは歩き出す。一度振り返ったが、三人の姿はもう見えなかった。

「それではめられちまったって訳か」
 宿を取って、食事の途中。事情を聞いたガトーが、無責任にげらげら笑っている。キャロットもナンパの失敗など、黙っていればいいものを。
「どれ、引っ張ってやる」
「いいっ! 指がなくなったら困る!」
ガトーの申し出に、キャロットがぶんぶんと首を振る。実際、ガトーに力任せに引っ張られたら、指が一本なくなるだけではすまないだろう。
「根気よく引っ張ってれば、いつか取れるわよ」
ショコラが楽観的な提案をした。洗剤もさっき試してみたが、いっこうに外れる気配がない。しばらくは放っておくしかなさそうだ。いよいよとなれば、誰か剣術の達人にでも切ってもらうしかないだろう。
 明日も早く出発しなければならない。五人は早めに食事をすませ、就寝の挨拶を交わして、男女それぞれの部屋に別れた。
「兄さん、もう起きないと」
「うんー? うん……」
 次の日、早朝。まだ夜が明けたばかりだったが、マロンとガトーは起き出していた。ガトーが朝一番の筋肉体操を始めているのを無視して、マロンがキャロットを起こす。
「なんか……だるい」
起き上がったキャロットが、ぼーっとした顔で呟く。マロンがちょっと心配そうな顔をした。
「風邪?」
「……でもないとおもうけど……」
マロンがキャロットの額に手をあてる。熱はなさそうだ。
「顔洗ってくる」
のろのろとキャロットがベッドを降り、洗面所にむかった。(この宿はバストイレ付だ)
「風邪か?」
朝からいい汗をかいているガトーが、タオルで汗を拭いつつ、マロンに尋ねる。
「違うと思うけど……」
風邪を引くような行為はしていないし、そんな時期でもなかった。
 気を取り直して、マロンが部屋を出ようとした時だ。急に、キャロットが入っていった洗面所から、ガターン!という派手な音がした。
「兄さん?!」
マロンが驚いて、慌てて洗面所に飛び込んだ。洗面台に右手を掛けて、キャロットが床に膝をついている。洗面器が転がっていた……音の正体はそれだろう。
 キャロットは呆然とした表情で前を見ている。
「兄さん…?」
マロンが声を掛けると、一瞬後に反応して、キャロットが声の方向を探した。……視線がおかしい。反応も鈍い。
「兄さん?!」
マロンがキャロットの側に屈み込み、もう一度声を掛ける。
「マロン……そこにいるのか?」
キャロットの言葉に、マロンの背中に冷たい汗が走った。キャロットがマロンの方に手を伸ばし、肩に触れると弱々しく、笑った。
「誰か……、明かり消しちまったんじゃねえのか?……何にも……見えねえ」
そう……、キャロットの瞳には、何も写っていなかったのだ……。
「どうしたんだ?」
ガトーが顔を出した。
「ガトー……ティラ達を呼んできてくれないか」
キャロットを支え起こそうとしながら、マロンが言う。その表情は青ざめて、泣き出しそうにも見える。ただならない雰囲気に、ガトーはそれ以上何も聞かず、姉妹の部屋へ向かった。

「どういうこと」
 事情を知ったショコラが、怒ったように声を荒げる。……誰かのせいだとわかっていれば、迷わず叩きのめしそうな勢いだ。しかし、原因不明の現在、誰にあたることもできない。
 キャロットはあの後、更に貧血状態になって倒れた。出発を延期して、ガトーが医者を呼びに行っている。
 ティラは宿屋の入口で、ガトーが医者を連れてくるのを待っていた。部屋にいると落ち着かないので、ショコラが追い出したのだ。普段きゃぴきゃぴしているショコラだが、緊急事態にはティラより頼りになる。そこはやはり『姉』ということなのだろう。
「病気じゃ……なさそうね」
ショコラがキャロットの顔を覗き込んで言う。ベッドの側に座っているマロンが、ゆっくりと頷いた。
 いきなり失明する病気など、聞いたことがない。一応医者は呼んだが、きっと原因などわからないだろう。
「魔法か……呪いか……そのあたりだと思う……」
「呪い? 何でダーリンが? ダーリンは、嫌われても憎まれる人じゃないわよ」
「わからない……」
第一、悪意のある魔法なら、キャロットにきく訳がない。考えられるのは東方魔術だが、その気配は感じられない。
「お医者さんが、きましたわ!」
ティラが部屋に飛び込んでくる。初老で小太りの医者が、ガトーに抱えられるようにしてやってきた。確かに、この人物が自分の足で歩くよりは、その方が早いだろう。
「……あたし達は、廊下にいるわね」
ショコラが、未練たっぷりのティラの背中を押して、廊下へ出る。
「お姉様……キャロは……キャロは大丈夫ですわよね?!」
泣き出しそうな顔でティラがショコラに尋ねる。
 原因さえもわからない今、大丈夫なのかどうかなど、誰にも判断できないのは承知の上で、それでも聞くのだ。だから……すべて承知の上で、ショコラも答える。ティラにも自分にも、その言葉は必要だと思うから。
「大丈夫よ!」
そう言ってティラを抱きしめてやりながら、ショコラも自分以外の人間の温もりに、小さな安堵を覚える。
「マロンが……魔法か呪いかもしれないって……言ってたわ。病気じゃないなら、相手が……敵がいるなら、あたし達で、ダーリンを助けてあげましょう、ね、ティラ?」
「はい……はいですわ」
ティラがぐすぐすと泣き出した。その背中を優しくショコラが叩く。
 そうだ。誰にも、自分達からキャロットを奪わせない。誰にも、絶対に! ……決意と共に、ショコラは唇を噛み締めた。
 しばらくそうしていたが、不意にティラが顔を上げ、ショコラはティラの体を放す。
「お姉様……もしかして……もしかしてですけど……」
「何?」
「昨日……キャロがもらったっていってた……指輪……」
ティラの言葉に、ショコラがはっとする。確かに、思い当たるふしはそれだけだ。赤い色の指輪。取ろうにも取れなかった指輪……!
「子供って……言ってたわよ?」
「でもでも、それしか」
「……そうね……医者が帰ったら、皆に相談してみましょう」
ショコラが頷いた時、部屋のドアが開いた。二人が一瞬息を飲む。部屋の中から、マロンが礼を述べているのが聞こえた。
 出ていく医者に頭を下げてから、二人は大急ぎで部屋の中へ入る。
「ねえっ、どうだったの」
ショコラの問いに、マロンが小さく笑った。ティラがはっとして、ショコラの袖を引く。
「お姉様、キャロが」
言われて、ショコラがキャロットの方を向く。ベッドの中で、キャロットが目を開けていた。
「ダーリン! 気がついたのね?!」
ベッドの側に二人が駆け寄った。キャロットは依然として視線の定まらない目をしていたが、ショコラとティラが側に来た気配に気付き、小さく笑った。
「おう、お前ら……心配かけたなっ」
何時もよりは弱々しい、しかし確かにキャロットの声だ。そう思うとティラは思わず涙ぐんでしまう。……あのまま、目を覚まさないかもしれないと、ちらっと思っていたからだ。
「『風邪』と『過労』だとよ。視力がなくなったのも、一時的だから大丈夫だ」
ガトーがぶっきらぼうに言い捨てた。が、言い捨てながらティラとショコラに目くばせする。話を合わせろ、ということだろう。気付いて、二人も頷きを返した。
「な、ナンパにばかり精をだすからですわ!これに懲りたら、少しはおとなしくしてなさいまし!」
ティラの言葉に、キャロットがちぇ、と舌打ちする。一応、迷惑を掛けたと思っているので、言い返すのも気が引けたのだ。
「兄さん、マムには連絡しておくから、ゆっくり眠ってるといいよ……僕らは食事をしてくるから。あとで、兄さんの分も運んでもらうから」
「ああ」
キャロットは返事をすると、素直に瞳を閉じた。『過労』と医者が言うのなら、寝てれば直る、と思ったのだろう。

 キャロットが眠ってしまうのを確認して、四人は部屋を出た。階下に降り、そこでようやくティラとショコラに医者の話を聞かせる。
「原因不明なんだ」
「衰弱してるってんで、栄養剤とか、そいういうのだけ一応注射してったけどな」
「それなんだけど、マロン」
ショコラが二人の話が終わるのを待って、口を開く。
「ティラとも話したんだけどね……あの、指輪が怪しくない?」
「そうですわ!あれしか思い当たりませんもの!」
「……あの指輪、何色だったっけ?」
二人の主張を聞いたマロンが、静かに尋ねる。驚いた様子がないところを見ると、どうやらマロンもすでに気付いていたのだろう。姉妹は顔を見合わせた後、『赤』と声を揃えて答えた。
「あの指輪ね……さっき見たら、紫色になってるんだ」
視線を外して、考え込むような表情のマロンを見て、ティラはコートのポケットに手を突っ込んだ。ポケットの中から、鈴を取り出す。
「マムに連絡するのか?」
「そうですわ!……何か、知ってるかもしれませんもの」
「そうね……その方がいいわね」
ショコラが頷いた。ここで、顔を見合わせて唸っているよりは。
 チリーン! と鈴が鳴った。ややあって、まわりの景色が一瞬にして闇と摺り代る。
「はあ〜い、ドーターちゃんですっ どうしたの、みんな?」
ぽんっ、という音と共に、ドーターが出現した。
「急いでいますの、マムとつないで欲しいんですわ!」
「ダーリンが大変なのよう」
姉妹が口々に喋ったので、ドーターがきょとんとした顔をした。しかしそれでも、緊急事態ということだけは察知したのだろう。すぐに水晶玉を取り出して、マムを呼び出した。
「どうしました、皆さん?」
『マム!』
またもや同時に喋り出そうとした二人を、ガトーが後ろから手を伸ばして、左右の手でそれぞれの口を塞いだ。マロンが前に進み出て、事情を説明する。
「……赤い、指輪?!」
話を聞いたマムの顔色が変わった。
「知っているのですか」
「ええ……知っています」
マムが一度目を閉じて、記憶をたどるような表情をした。四人が息を飲む。
「……クラーの指輪……」
「クラーの……指輪?」
「貴方達をカッシュへ派遣しようとしたのは、そのせいなのです」
そう言うとマムは、静かな溜め息を一つ挟んでから、話を始めた。
「クラーの指輪というのは、カッシュの法族ネルギー男爵家が、戦乱の終結当時から、ずっと封印していた禁呪です」
「禁呪」
「そう……遥か昔、この大陸が戦乱にあけくれていたころ、一種の治療魔法として生み出されたものなのです」
「治療魔法……」
「なのになんで、あんな状態に?!」
「そう……それが、あの魔法が禁呪にされた理由です」




BACK HOME NEXT